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国立公文書館が開示した厚労省から移管された公文書の公開にあたって

(西山勝夫:『留守名簿 関東軍防疫給水部隊』の公開をめぐって. 編集復刻版『留守名簿 関東軍防疫給水部隊』第1冊. 13-23, 不二出版, 2018. より抜粋) 

(2018年414日の京都大学における記者会見を機にして)研究に役立ててもらうため、今後ホームページで公開する」と報じられたことにより、「遺族」が伝えてきたような不安・恐れが生じたことは想像に難くない。また、2016年の一部利用や今回の報道を機にして生存者を『留守名簿』上で確認できた。このことからも、たとえいったん公開した内容がどのように利用されるかについて公文書館は一切責めを負わないとしているにしても、出版、公開に当たっては「個人情報」「死者の情報」の扱いについては吟味されなければならない。

       厚生労働省にある戦没者等援護関係の資料の公文書館への移管の趣旨・目的は「これら資料について先の大戦に関する貴重な歴史資料として、広く研究者等が利用できるようにしていくとともに、後代に確実に引き継ぐこと」(厚労省「戦没者等援護関係の資料の移管等について()2010322日)とされていること

      「個人、法人等の権利利益や公共の利益を保護する必要性は、時の経過やそれに伴う社会情勢の変化に伴い、失われることもあり得ることから、審査において『時の経過を考慮する』(公文書等の管理に関する法律《以下、法》第16条第2項)に当たっては、利用制限は原則として作成又は取得されてから30年を超えないものとする考え方を踏まえるもの(国立公文書館利用等規則第12条第3項)とし、時の経過を考慮してもなお利用制限すべき情報がある場合に必要最小限の制限を行うこととする。また、審査においては、特定歴史公文書等に付された意見を参酌することとなるが(法第16条第2項)、『参酌』とは、各機関等の意見を尊重し、利用制限事由の該当性の判断において適切に反映させていくことを意味するものであり、最終的な判断はあくまで国立公文書館の長に委ねられている。」(国立公文書館「独立行政法人国立公文書館における公文書管理法に基づく利用請求に対する 処分に係る審査基準」201141日)とされていること

      「法第16条第1項第1号及び第2号の利用制限情報該当性の判断基準」(同審査基準)により利用決定されていること

から、『留守名簿』上の個人情報の出版やインターネットなどによる公開については現行法制度上問題ないといえよう。

 『関防給』、『9420部隊』、『1855部隊』は細菌兵器を開発・使用したことがかねがね言われてきた。特に『関防給』は、『中支那防疫給水部、1644部隊』ともに、731部隊細菌戦国家賠償請求訴訟で、国家無答責の法理で国家賠償請求は棄却されたが、細菌兵器使用の罪状は確定された(最高裁判所、200759日)。戦時中、日本は批准していなかった「窒息性ガス、毒性ガス又はこれらに類するガス及び細菌学的手段の戦争における使用の禁止に関する議定書」(1925617日作成)に盛られた国際規範に違反していること、日本が批准していない国連総会決議「戦争及び人道に対する罪に対する時効不適用条約」(19681126日)照らし合わせれば、軽重の差はあるかもしれないがすべての部隊員は罪を問われるべきであることが省みられなければならない。

かつての戦争において日本は2000万にともいわれる他国の人々を死に至らしめるなどの加害の歴史を有し、多くの人々が今も肉親を失った苦悩などのもとにある。何人にも、他者の人命の犠牲の上にある安寧はあり得ないという倫理観が求められる。『留守名簿』によって隊員の縁者が明らかになることは、隊員の負うべき責めだけでなく、縁者を通じても日本(人)の加害の責めの全体像と二度と繰り返さない道が具体的になること(研究)につながると考えられる。公文書に基づくある部隊の全隊員の実名の公表と解明は日本史上初と思われ、日本軍細菌戦部隊の存在を証する確実な証拠にとどまらず、厚労省から移管された延べ約2300万人分の名簿の研究の端緒を開くものとなることが期待される。それは予想を超える「インパクト」をもたらすのではないだろうか。なぜなら、ナチス医学犯罪に勝るとも劣らない悪行を行った関東軍防疫給水部などの全員の実名が公開されたが故に、2000ヶ所以上で化学兵器が使用されたとする中国の調査で明らかになっている地域に侵略していた部隊やその他の蛮行を行なったと言われてきた部隊の名簿を公開しないわけにはいかなくなるからである。延べ約2300万人の実名が記載された簿冊30000冊以上、マイクロフィルム約2800本の公開の突破口となり、さらに一人一人の隊員の動態を通じて、かつての戦争と戦後の史実の解明を可能とする一人一人の隊員に関するデータベースの構築につながるからである。その意味で、『留守名簿』のできる限り正確な翻刻版をできるだけ早く公開することは喫緊の課題と考える。

その全容解明の研究過程で、私たち調査研究者自身の縁者の実名が発掘され、同人からも直接聞くことができなかった戦争加担の姿が明らかになる可能性もある。報道に対する反応は、出版・インターネットなどによる公開が、これまでの知られざる隊員の縁者の「安穏」を揺るがす、避けがたい「インパクト」の予兆といえよう。

 厚労省の「旧軍人軍属の恩給、軍歴証明書に関する業務」(201852)にも、「旧陸海軍軍人・軍属の軍歴」については「個人情報であることから、本人またはその遺族、行政織闘等からの照会を除き、原則として非公開としています。」と改めて記されたことから、厚労省を通じての公開は閉ざされていることには変わりがないことが明らかになり、公文書館所蔵の名簿の持つ意義が一層際立つ。